治療打切、症状固定の方へ

1 保険会社から「治療費支払を打ち切る」と告げられた方へ

 加害者がいる交通事故の場合、加害者の契約保険会社が被害者の治療費を病院等に直接支払っているのが普通です。

 しかし、特にむちうち(頚椎捻挫)や腰椎捻挫、打撲傷などの明確な外傷性所見がない症状の場合、事故後6か月とか、早いときには3か月程度でも、保険会社から「もうそろそろ治療を終了にしてください。治療費支払を打ち切ります。」と治療の打ち切りを求められることが多々あります。骨折等の場合は症状にもよりますが、1年ほどで「もうそろそろ」と保険会社が治療費の打ち切りを告げてくることがあります。

 しかし、いつまでの治療が必要かつ相当かということは、保険会社が決められることではなく、あくまで主治医が患者を診察した中で「医学的に」判断されることです。

 まずは、主治医と相談し、引き続き治療が必要かどうかを確認してください。まだ怪我が治っていないのなら、保険会社からの治療打切通告に従う必要はありません。当事務所が交渉した結果、治療費の支払期間が数か月延びたケースも多くあります。

 もっとも、特に最近は、総じて保険会社が早期に治療費支払を打ち切ることも多く、中には具体的な事故内容や怪我の内容をほとんど考慮せず、「むちうちは3か月が限度です」などと何の根拠もなく言い張るケースも目につきます。

 このように保険会社が交渉に応じず、治療費支払期間を延ばさない場合であっても、自費(健康保険使用)で通院を続けることは何ら妨げられません。この場合、支出した自費治療費分は後に保険会社に賠償請求をすることになります。

 何よりもお身体のことを考えれば、また結果的に賠償額の関係でも、無理に治療をやめるのではなく、一旦は自費(健康保険利用)負担にしてでも通院を続けた方がメリットがあることが多いのです。

 主治医がそろそろ症状固定(治療を続けてもこれ以上良くなる見込みがない状態)と言ってきた場合、治療を終え、痛みやしびれ、可動域制限などの後遺障害が残っているのであれば、後遺障害診断書を作成してもらって、後遺障害申請を検討することになります。

 ただし、残念ながら、医師の中には「保険会社の治療費支払打ち切り」=「治療の終了時期」=「症状固定」と短絡的に決めつける人もいますので、保険会社の治療費支払打ち切りと同時に医師が症状固定であると言う場合、鵜呑みにしない方がいいこともあります。

2 症状固定となった方へ

 治療したものの、残念ながら完全には治らなかった(痛みやしびれ、関節の可動域制限など等が残ってしまった。)という場合、その状態を「症状固定」といい、主治医に「後遺障害診断書」を作成してもらい、後遺障害等級の認定申請をすることになります。

 症状固定と判断された後の治療費は、原則として加害者(保険会社)は負担せずに自己負担になります。もっとも、リハビリなどの治療を健康保険を使った自己負担で行うことは可能ですので、医師が症状固定と言ってもまだリハビリを受けたい方は自己負担で治療を受けることが可能です。

 なお、症状固定になる前に、MRI等の必要な検査が未了の場合は検査をしておきましょう。

 

 後遺障害等級(1級から14級まで)の認定は、交通事故賠償請求事件の解決の中で極めて重要なポイントです。障害等級非該当か14級かで賠償金の金額は100万円以上違ってきますし、等級が1つ違うだけで数百万円単位で賠償金は違ってくるのが普通です。

 そして、後遺障害等級の認定において、最も重要な資料となるのが「後遺障害診断書」ですが、主治医による記載(レントゲンやMRI画像所見の記載、各種反射テストやしびれ部位など神経学的所見の記載、関節可動域の詳細な記載、患者の自覚症状の詳細な記載)が不十分な場合、後遺障害認定において不利に取り扱われるおそれがあります。

 医師は治療の専門家であって、後遺障害認定の専門家ではないので、後遺障害診断書を作成してもらう際には注意が必要です。 

 むちうち(頚椎捻挫)や腰椎捻挫については、たとえ経年性変化(⇔事故外傷による変化)であっても、椎間板等にMRI等の画像で異常所見があった場合は記載してもらったほうがよいですし、スパーリングテストやジャクソンテスト等の各種検査結果もしっかりと記載してもらった方がよいです。もちろん、痛みやしびれがどこにあるか、常時あるかなどの自覚症状も詳しく記載してもらうことが必要です。

 医師の中には丁寧に記載してくださる方が多いですが、中にはほとんど内容のある検査結果を記載してくれない医師もいます。そのため、被害者側から後遺障害診断書へきちんと詳しく記載してもらうようお願いする必要があります。

 後遺障害診断書にどのようなことを、どのように記載してもらえばよいのかは、具体的な症状によって異なってきますので、まずはご相談ください。

 以上、治療費支払の打ち切りを通告された方や症状固定となった方に気を付けていただきたい点を記載しましたが、具体的な対応方法については、具体的なお怪我の状態や事故状況、保険会社の対応等にもよりますので、まずはご相談ください。